エンジンオイルメーカーは、基油や添加剤の詳細を聞かれると、よく「企業秘密」という言葉を使う。
もちろん、企業秘密そのものは否定しない。
配合比率。
添加剤の詳細な処方。
製造工程。
添加順序。
評価試験のノウハウ。
これらは企業の競争力であり、すべてを公開できないのは理解できる。
しかし、私は思う。
本当に重要なノウハウは、成分名を並べただけで盗めるようなものなのか。
たとえば、コカ・コーラとペプシコーラを考えれば分かりやすい。
どちらも炭酸水、糖類、酸味料、香料、カラメル色素など、似たような原材料を使っている。
しかし、味は違う。
香りも違う。
後味も違う。
ブランドとしての印象も違う。
つまり、全成分を表記しても、同じものは簡単には作れない。
重要なのは、成分名だけではない。
配合比率。
原料の品質。
混合順序。
製造管理。
熟成や安定性。
微妙なバランス。
そうした部分にノウハウがある。
エンジンオイルも同じである。
仮に、PAO、エステル、VHVI、アルキルナフタレン、清浄分散剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、消泡剤、粘度指数向上剤と表記したとしても、それだけで同じオイルは作れない。
PAOにも種類がある。
エステルにも種類がある。
VHVIにも品質差がある。
添加剤にもメーカー差がある。
清浄分散剤の種類も違う。
摩耗防止剤の配合も違う。
粘度指数向上剤のせん断安定性も違う。
同じ「エステル配合」でも、何のエステルか、何%入っているか、何の目的で入れているかで性格は変わる。
同じ「PAO配合」でも、少量配合なのか、PAO主体なのかで意味はまったく違う。
だから、全成分を表記しただけで処方が盗まれるという理屈は、私はやや過剰だと思う。
少なくとも、基油の大分類すら隠す理由にはならない。
VHVIなのか。
GTLなのか。
PAOなのか。
エステルなのか。
アルキルナフタレンなのか。
この程度の情報は、消費者が製品を選ぶ上で重要である。
ここまで企業秘密として隠すなら、私は逆に疑う。
本当に高度な処方を守っているのか。
それとも、公開するとグループ3主体であることが見えてしまうのか。
PAO配合と書いているが、実際は少量添加にすぎないのか。
エステル配合と書いているが、実際は添加剤的な量なのか。
Full Syntheticと書いているが、中身は高度水素化鉱物油主体なのか。
企業秘密という言葉が、消費者に対する説明責任を逃れるために使われていないか。
私はそこを見る。
もちろん、配合比率を1%単位で公開しろと言っているのではない。
添加剤メーカー名や詳細な化学構造まで出せと言っているのでもない。
しかし、基油の大枠は示すべきである。
グループ3主体なのか。
グループ3+なのか。
PAO主体なのか。
エステル主体なのか。
GTL主体なのか。
そこを明確にすることは、企業秘密の侵害ではなく、消費者への誠実な説明である。
むしろ、それを隠さなければ競争力を保てないというなら、その処方は本当に強いのかと疑う。
優れたメーカーなら、基油の方向性を示しても、簡単には真似できないはずである。
なぜなら、オイルは成分名だけで決まるものではないからである。
同じ材料名でも、完成品の性能は変わる。
同じPAOでも違う。
同じエステルでも違う。
同じ添加剤でも違う。
同じ粘度でも違う。
だから、基油の大枠を隠すことを「企業秘密」と呼ぶのは、私はあまり信用しない。
本当に守るべき企業秘密は、配合技術である。
隠すべきではないものは、消費者が選ぶために必要な基油情報である。